オーダーのお客様、リペアのお客様、ともにお問い合わせを多くいただくのが靴のお手入れ、メンテナンスです。
深くこだわったり、ややこしいことを言えばきりがないのですが、ポイントを押さえれば日常のお手入れは簡単にできます。そこで、ここでは自分でできるお手入れ法を紹介したいと思います。
まず①汚れを落とす、②乾燥を防ぐこの2点につきます。
汚れ(ほこり、泥、水汚れ、油汚れ等)が革についたままだと、 革の傷みがはやくなります。革が乾燥すると、パサパサになったりカチカチになったりします。革が弱くなって、キズやひび割れのもとになります。 と言っても、本来革はタフな素材なので、極度に神経質になる必要はありません。
靴に振り回されて疲れないように。
Aコース:「簡単お手入れ」・・・日常のお手入れはこれで十分。
[1] 洗剤スプレーで汚れを落とす。 ※中身は台所用中性洗剤。ワックスを溶かさないので便利。
[2] 洗剤をタオルで拭き取り、そのままの流れで乾拭き。 ※コツは洗剤が染みすぎないようにサッと吹きつけて、サッとふきとることです。ホコリが取れれば十分です。
[3] そこそこにピカピカ。 ※もっと光らせたい場合はツヤ出し
Bコース:「普通お手入れ」・・・上記のベースになるお手入れ。時々で十分。
[1] 水洗い。中性洗剤でブラッシング、流水で流す。慣れないうちは中に水が入らないように。
[2] 乾燥は絶対陰干し。
[3] 乾ききる前に保革油を使う。(過乾燥を防ぐ、クリーム汚れを落とす効果あり)※保革油は中性でロウ分のないものが使いやすい。(ニーツフットオイル・馬油・スポーツオイル・ミンクオイル・サドルソープなど。)
[4] ちょっと乾拭きして、靴クリーム(お好みのクリームをご使用ください。廉価品に注意)。
[5] 靴クリームは拭き取り命。手触りがサラサラになるまでふき取るのが理想。
[6] ツヤ出し(お好みのワックスをご使用ください)
※状態によっては①~③を省略して靴クリーナーで汚れを落とし、④の工程へ進んでも良いと思います。
※ピッカピカにしたい方は、③と④の間で、光らせたい部分を研磨するといいベースができます。
Cコース:「プロにおまかせ」・・・自分で手に負えない方。一度完璧な状態を作りたい方。
[1] お持ち込みください。要望をお伺いいたします。
※一度キッチリ磨き上げると、しばらくは上記Aコースのお手入れで十分です。
①メンテナンス前
メンテナンス前の一般的なビジネスシューズです。
②革靴の表の汚れを落とす
まず、革靴の汚れを落とす為に、ブラシなどで靴を水洗いします。
③革靴の裏のよごれを落とす
革靴の裏などの汚れもブラシで落としたます。
④水洗いする
革靴の表と裏を綺麗に水洗いします。
⑤水分を拭き取る
水洗いした革靴を綺麗に拭き取ります。
⑥丁寧に拭き取る
丁寧に拭き取ります
⑦コテ当てする
コテをあてて小じわを伸ばします。
(※必要な時)
⑧叩く
叩いて小傷を隠します。
(※必要な時)
下地完成
これで下地が完成になります。
塗布
乳化性クリームを丁寧に塗り込んでいきます。
磨く
塗り込んだ乳化性クリームを磨いていきます。
払拭
綺麗に払拭して行きます。
(※大事な工程です。)
艶出し
クリームを塗布し艶を出して行きます。
拭き取り
最後の払拭です。
完成
全ての工程が終えて完成となります。
※以下の記述はツヤ革を使用した普通のドレスシューズの場合。革により、靴により、この限りではありません。
■汚れがこびりついた乳化性靴クリーム
手入れ時のふき取りが悪く、クリームの油分に汚れが固着。手ごわい。
■層をなしたリキッドタイプのワックス
リキッドは便利ですが、厚塗りになるとひび割れします(特に芯材がない部分)。一見光っていますが、革にはよくないです。
※その他いろいろありますが、上記の汚れは自分で防げるものです。ご注意を。
●ちょっとならタオルでふいて陰干し。靴箱に入れない。乾いたら必要に応じてクリーム等でお手入れ。
●中までしっかりぬれたなら、そのまま流水で汚れを落として、ざっとふきとり、陰干し。
●その後の対応は、上記のBコースかCコースで。
※塩が吹いたときも洗えばだいたい落ちます。
取れるものと取れないものがあります。これはプロでも状態を見ないとはっきり言えません。黒い靴ならほぼ問題なく対処できます。
シミ・ムラ・退色・日焼けなどは、最終的に「染替」ができます。ただし革の場合、「染める」と言っても顔料の「吹き付け」です。
●ベースが肝心です。いい下地を作る。そのために、汚れをおとす。凹凸をならす。叩いたり研磨したりする。
●鏡面磨きなんか流行っています。いいワックスを使うのがコツです。
●ツヤ出し(ポリッシュ)は、年季です。修錬あるのみ。センスのいい方はマスターが早い。
●最近は靴修理用の安いアイデア商品があります。使ったことがないのでコメントがしづらいですが、高度な仕上がりは難しいでしょう。
●確実に言えるのは、屈曲部への瞬間接着剤は厳禁です。革用イコール靴用ではありません。瞬間接着剤は革をカチカチにします。ダメージを増やしますのでご注意願います。
●まずは、失敗しても惜しくない靴でトライしてみると、靴への理解が深まると思います。
●自分でできるリペアの範囲は狭いようです。よい仕上がりを望む方は、専門店にご相談を。
一般的にメンテナンスの定説は、①クリーナーで汚れを落とし、②靴クリームで革に栄養を与え、③つや出しワックスで仕上げの輝き、が一応の流れです。
疑問点も多少あります。
しっかり汚れた靴の場合、クリーナーから入ると、使用後のふき取りだけでは汚れの混ざったクリーナーの成分が残るので、最初に水洗いしたほうがスッキリします。靴の汚れだけ特別、ということはないので、普通の洗剤で普通の汚れは十分落ちます。
■水で洗って大丈夫か?①
基本、大丈夫です。ただし慣れない方は流水が原則です。シンクやバケツにつけるのは止しましょう。コードバン・淡色系の革・アニリン染めなども水洗いは止しましょう。汚れの度合いにより、シミになることがあります。リカバリーできます。失敗した場合は専門店にご相談を。
■水で洗って大丈夫か?②
濡らすと靴が型崩れすると言われますが、最近の靴の芯材は耐水性なので、過度な心配は必要ないと思います。
高級ブランドなどでは、昔ながらの革芯を使っております。これも、水につけこむと話は別ですが、流水でざっと汚れを落とす分には型崩れの心配はないようです。
■水で洗って大丈夫か?③
濡らした後の注意点として、油分が落ちて革が乾燥しすぎることがあります。その時は、再度水分を補給した上で、保革油などでケアします。上記メンテで紹介したように、サドルソープを使うのがベストのようです。
■水で洗って大丈夫か?④
靴を洗うと革の成分が流れ出る、という話を聞きます。タンニンなど微量に流れ出ると思いますが、問題視するほどのことではありません。鍋でグツグツ煮込むとさまざまな成分が出るかもしれませんが、水にぬれて革がだめになるというのなら、靴の素材には向かないと思います。
■クリーナーについて①
当店愛用のクリーナーは、「洗剤スプレー」です。100円ショップのスプレーボトルに台所用の中性洗剤(手肌にやさしい)と水で作ります(適当に数滴)。柔軟剤の代用にもなります。スプレーしてふき取るだけ。お客様によく実演します。有機溶剤を入れないので、ワックスが溶けず助かります。安あがりなので多用します。一般の靴用クリーナーは、靴に応じて時々使います。頑固な汚れに強力なのが、リグロインという薬品(試薬)です。
■クリーナーについて②
安上がりで効果が大きいのは異業種になりますが、化粧品の「クレンジングオイル」「メイク落とし」などです。高価なものは使ったことがありません。
100円ショップのものの方が、必要機能に絞られていて余計な成分がないように思います。靴用のステインリムーバー並みの威力を持っています。化粧品は市場が大きいので競争も激しいのでしょう。安くて良いものがあるかもしれません。
「乳化性クリームで革に栄養を与える。」と言いますが、栄養の正体は何か?
クリームにビタミン・ミネラル・カルシウムが入っているのか?栄養って塗るだけで吸収されるのか?ちなみに靴クリーム(乳化性)の主成分は、「ロウ(つやを出す)、油脂(革の乾燥を防ぐ)、有機溶剤(ロウを溶かすため)、界面活性剤(水分と混ぜるため)」そして、表記にはありませんが「水」です。油分と混ざっているため、水が腐ることはないですが、カビが生えることがあります。ビンに入っているのは、缶だと錆びるからです。つまり、靴クリームの役目は、水・オイル(油脂)・ワックス(ロウ)をバランスよく与えるためです。持ち味はメーカーごとに様々なアピールがありますが、結局は好みによります。
シミ・ムラ・退色・日焼けなどは、最終的に「染替」ができます。ただし革の場合、「染める」と言っても顔料の「吹き付け」です。
乳化性の靴クリームを厚さ0.3mmの革(カーフ)にすりこんでいきます。革の裏側までしみこむかというと、しみこまない。水分の多いデリケートクリームも同様です。その革をナイフで切って断面を確認すると、クリームの効果は表面にしか及ばない(それで十分ですが)ことがわかります。水に濡らす場合、数ミリある少々厚い革にも浸透します。保湿にはクリームよりも水が効果的ということです。逆に革の繊維の奥に汚れを運ぶのも水です。つまり、ぬれた時の注意は、革の成分が抜けることよりも、革の内外の汚れや不純物が、繊維の奥まで浸透したり、偏ったりすることです。「洗うときは流水で」、お分かりいただけると思います。(ちなみに、油も液体なら浸透します。)
比喩として、そういう表現をするくらいに、革は素材として優れたものと思いますが、時々誤解を招くような話に出会うことがあります。
職人にとって革は材料です。革に囲まれて仕事しています。切ったり、叩いたり、ひっぱったり・・・生きていたら怖くてできません。
「自分でできる靴のお手入れ方法」として紹介させていただきましたが、文字にすると全てを紹介するのは無理かなと感じます。
素材・製法・状態で違うのだから当然ともいえますし、そこに専門家の必要性もあるだろうと思います。
ここで紹介した技術・知識はほんの一部ですが、職人たちの先輩方や革材屋さんに教えていただくことが多くヒントになっております。皆様ありがとうございます。
このページをご覧になる靴好きの方、参考になれば幸いです。質問等あれば対応いたします。